準天頂衛星システムの開発

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電子航法研究所は、 国が進める準天頂衛星システム (QZSS: quasi-zenith satellite system)の開発に 平成15年(2003年)度から参加しています。 平成22年(2010年)9月には準天頂衛星「みちびき」が打ち上げられ、 現在は関係機関によるさまざまな実験が実施されています。


衛星測位システム

人工衛星により位置を測定することを「衛星測位」といいます。 衛星測位システムの代表例は 米国によるGPS(global positioning system:全地球測位システム)で、 カーナビ等でもなじみのあるものですが、 準天頂衛星システムはGPSと同様の機能をもちます。

衛星測位の仕組み
図1 衛星測位の仕組み

衛星測位システムの利用者は、 測位衛星が放送している電波(測位信号)を使って、 自分がいる現在位置を知ることができます。 利用者には、測位信号を受信して、位置の計算をする受信機が必要です。 また、衛星測位システムにより位置の計算をするためには、 原則として4機(経緯度だけわかればいい場合などは3機)以上の 測位衛星の測位信号を受信することが必要です。

衛星測位システムの受信機は、 GPSに対応したものがカーナビや携帯電話に組み込まれています。 これらの受信機は、現在位置を求める必要があると、 GPS衛星の電波を受信して位置の計算を自動的に実行します。 得られた現在位置は地図上に表示されるのが普通ですが、 GPS受信機が計算しているのは現在位置(の経緯度)だけです。 地図情報はカーナビや携帯電話に組み込まれています (GPSが放送しているわけではありません)。

なお、GPS受信機は、GPS衛星が放送している電波を受信するだけです。 GPSで位置を計算するために、電波を出す必要はありません。 GPS受信機は、GPS衛星と交信しているわけではなくて、 GPS衛星が放送している電波を一方的に受信するだけです。


準天頂衛星システムのサービス

準天頂衛星(QZS: quasi-zenith satellite)は、 図2のように地上軌跡が8の字を描くような軌道を周回しています。 このような軌道とすることで、日本の真上から測位信号を放送することができます。 図3のように、 ビルや樹木の陰になってGPS衛星の測位信号を受信できない状況でも、 真上(天頂方向)からやってくる準天頂衛星の測位信号は受信できますので、 測位衛星が足りずに現在位置が得られないといった不都合を減らすことができます。

図2にも表示してありますが、 準天頂衛星が8の字の上半分にいるのは8時間40分で、 残りの15時間20分は8の字の下半分にいます。 このため、3機の準天頂衛星を組み合わせて、 同一の8の字軌道を周回させることで、 一日中いつでも日本の真上から測位信号を放送することができるようになります。 3機の準天頂衛星によるシステムを 準天頂衛星システム(QZSS: quasi-zenith satellite system)と呼んでいて、 平成22年(2010年)9月に打ち上げられた準天頂衛星「みちびき」は この第1号機となる予定です。

準天頂衛星の地上軌跡
図2 準天頂衛星の地上軌跡
準天頂衛星の効果
図3 準天頂衛星の効果

準天頂衛星システムは、大きく分けて次の2つの機能を提供します。

こうした機能を実現するため、「みちびき」は表1の測位信号を放送します。 これらの信号は、同時にすべて放送されます。

表1 準天頂衛星「みちびき」が放送する測位信号
信号名 中心周波数 帯域幅 変調方式 PRN番号 補完機能 補強機能 備考
補完信号 QZS-L1-C/A 1575.42MHz 24MHz BPSK(1) 193〜 GPS-L1-C/Aから若干の変更
QZS-L1C 1575.42MHz 24MHz BOC(1,1)* 193〜 GPS-L1Cとは変調方式に違いあり
QZS-L2C 1227.6MHz 24MHz BPSK(1) 193〜 GPS-L2Cから若干の変更
QZS-L5 1176.45MHz 24MHz BPSK(10) 193〜 GPS-L5から若干の変更
補強信号 QZS-L1-SAIF 1575.42MHz 24MHz BPSK(1) 183〜 SBAS-L1-C/Aから若干の変更
QZS-LEX 1278.75MHz 42MHz BPSK(5) 193〜 準天頂衛星システム独自の信号
*2号機以降では変更される可能性があります

補完信号には、QZS-L1-C/A、QZS-L1C、QZS-L2C、QZS-L5の4つがあり、 これらはいずれも補完機能のみをもちます。 GPSが放送する同名の信号とよく似た信号となっていますが、 若干の変更をしてありますので既存のGPS受信機では受信することはできません。

QZS-L1-SAIFとQZS-LEXの2つの補強信号は、 補完機能と補強機能をあわせもっています。 QZS-L1-SAIF(submeter-class augmentation with integrity function)信号は、 サブメートル級(測位精度1m以下)の補強情報を提供します。 GPS補強システムの国際標準規格SBASと同じ信号形式になっていますが、 やはり若干の変更がありますので、 既存のGPS受信機やSBAS対応GPS受信機で受信することはできません。 QZS-LEX(L-band experiment)信号は、 準天頂衛星システム独自の信号です(既存GPS受信機はもちろん対応していません)。 こちらの補強信号は、 主に測量用途などで高精度な位置測定を可能とすることを目的としています。

準天頂衛星「みちびき」が放送するすべての測位信号は、 IS-QZSS(IS: interface specification)という文書に 詳細な仕様が規定されています。 測位信号の詳細についてはIS-QZSSを参照してください。 IS-QZSSのページ(JAXA提供)は こちら


L1-SAIF補強信号

L1-SAIF(submeter-class augmentation with integrity function)補強信号は、 サブメートル級(測位精度1m以下)の補強情報の提供を目的として設計されています。 信号の形式は、GPS補強システムの国際標準規格SBASと同じですが、 若干の変更がありますので、 既存のGPS受信機やSBAS対応GPS受信機で受信することはできません。 L1-SAIF信号については、当所が担当して開発を進めてきました。

L1-SAIF信号では、補強情報をメッセージという単位で放送します。 メッセージにはタイプ0〜63の64種類があり、 このうちいずれかのメッセージが毎秒1個ずつ放送されます。 各タイプのメッセージが放送される順序は特に決められていません。 各メッセージは250ビットから構成されていて、 GPS時刻の毎正秒に同期してメッセージの送信が開始されます。 メッセージの構造は図4のとおりで、 8ビットのプリアンブルに続いて6ビットのメッセージタイプが送信され、 これにデータ領域が続きます。 最後は24ビットのCRCコードが付加されます。 データ領域の内容は、それぞれのメッセージタイプに応じて規定されています (詳細はこちら、あるいは IS-QZSS にも記載されています)。

メッセージ形式
図4 L1-SAIF信号のメッセージ形式

L1-SAIF信号が放送するメッセージには、 SBAS互換メッセージ(タイプ0〜28と62〜63)と L1-SAIF独自の拡張メッセージ(タイプ52〜60)があります。 SBAS互換メッセージについては、 GPS補強システムの国際標準規格SBASと同一の形式となっています。 L1-SAIFでは、基本的な補強情報についてはSBAS互換メッセージで放送され、 これによりサブメータ級の測位精度は達成できます。 高度な補強処理については拡張メッセージで対応することとしていますが、 受信機が拡張メッセージに対応するか否かは自由です。 拡張メッセージについては現在のところ実験や検証を進めている段階であり、 メッセージ形式が確定しているわけではありません。

L1-SAIF信号に対応するには、 既存受信機に対してソフトウェアの改修が必要となります。 基本的な補強情報はSBAS互換メッセージで放送されますから、 SBAS対応GPS受信機であれば小規模な修正のみでこれに対応できます。

補強結果の例
測位誤差の統計値
システム水平測位誤差垂直測位誤差
L1-SAIF補強なし 95%誤差2.90m5.84m
最大誤差6.02m8.45m
L1-SAIF補強あり 95%誤差0.58m0.78m
最大誤差1.56m2.57m

95%誤差: 測位誤差の95%が入る半径
※測量級の受信機及びアンテナを使用しています。

評価対象:電子基準点940058(高山)
実験期間:2008年1月19〜23日 (5日間)


図5 L1-SAIFによる補強結果の例

図5は、L1-SAIF補強情報の有無による測位誤差の違いを調べた例です (SBAS互換メッセージのみによる結果。 補強性能を調べることが目的のため、 「みちびき」のGPS補完機能は使用していません)。 赤いプロットは補強情報がない場合(「GPS単独測位」といいます)、 緑色のプロットは補強情報がある場合の測位誤差で、原点が正しい位置です。 補強がない場合は大きな測位誤差となることがありますが、 補強情報により測位誤差がほぼ1m以内に抑えられている様子がわかります。 ただし、この例では測量級の受信機及びアンテナを使用していますので、 受信機やアンテナの性能・状況によってはこうした結果とならない場合もあります。


L1-SAIF信号の放送スケジュール

準天頂衛星「みちびき」のL1-SAIF信号放送機能は、 当所によるL1-SAIF補強実験と、 財団法人衛星測位利用推進センター (SPAC)が実施する 利用実証実験の両方で使用されます。 L1-SAIF信号に乗せられている補強情報は、 どちらかの機関の実験としてつくられているものです。

当所の実験に割り当てられている実験期間は、表2のとおりです。 通常の運用では、実験期間の初日の午前中からL1-SAIF補強信号の放送を開始し、 最終日の夕方に停止することが多いですが、 実験の都合により随時停止・再開することがあります。 また、当所によるL1-SAIF補強信号の放送はあくまでも実験ですので、 補強性能について何らかの保証をするわけではありません (必ずしも測位精度が改善するとは限りません)。

表2 L1-SAIF信号の放送スケジュール(2013-10-18現在)
実験ID開始日終了日状況実験の概要
E10-12010-12-132010-12-24 終了 L1-SAIFメッセージの伝達確認
E10-22011-01-112011-01-21 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E10-32011-02-072011-02-18 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E10-42011-03-142011-03-25 中止 東日本大震災の影響により実験を中止
E11-12011-04-112011-04-15 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-22011-05-092011-05-13 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-32011-06-202011-06-24 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-42011-07-182011-07-22 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-52011-08-152011-08-19 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-62011-08-292011-09-02 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-72011-10-102011-10-14 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E11-82011-11-052011-11-11 終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E11-92011-12-122011-12-19 終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E11-102012-01-092012-01-13 終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E11-112012-01-232012-01-25 終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E11-122012-02-062012-02-10 終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E11-132012-03-052012-03-10 終了 L1-SAIFメッセージによる測位精度改善等
E12-1 2012-04-022012-04-06終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-2 2012-04-202012-04-27終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-3 2012-05-072012-05-11終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-4 2012-05-212012-05-25終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-5 2012-06-042012-06-08終了 L1-SAIFメッセージの送出タイミング調整
E12-6 2012-06-182012-06-22終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-7 2012-07-022012-07-06終了 L1-SAIFメッセージの送出タイミング調整
E12-8 2012-07-162012-07-23終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-9 2012-07-302012-08-03終了 L1-SAIFメッセージの送出タイミング調整
E12-10 2012-08-132012-08-17中止 人員確保の都合により実験を中止
E12-11 2012-08-202012-08-24終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-12 2012-09-032012-09-07終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-13 2012-09-172012-09-21中止 SPACの要請により実験を中止
E12-14 2012-10-012012-10-05終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-15 2012-10-152012-10-19終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-16 2012-10-292012-11-02終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-17 2012-11-122012-11-16終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-18 2012-11-262012-11-30中止 人員確保の都合により実験を中止
E12-19 2012-12-112012-12-14終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-20 2012-12-222013-01-09終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E12-21 2013-01-122013-01-18終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E12-22 2013-02-042013-02-07終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-23 2013-02-082013-02-15終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E12-24 2013-02-252013-03-01終了 L1-SAIFメッセージによる軌道情報の伝送等
E12-25 2013-03-112013-03-15終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E12-26 2013-03-252013-03-28終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-1 2013-04-222013-04-26中止 人員確保の都合により実験を中止
E13-2 2013-05-272013-05-31中止 人員確保の都合により実験を中止
E13-3 2013-06-242013-06-28中止 人員確保の都合により実験を中止
E13-4 2013-07-082013-07-12終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-5 2013-07-222013-07-26終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-6 2013-08-052013-08-09終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-7 2013-08-192013-08-23終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-8 2013-09-022013-09-05終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-9 2013-09-302013-10-04終了 GPS+GLONASS+QZSS補強情報を放送
E13-10 2013-11-202013-11-22予定(暫定) 未定
E13-11 2013-11-252013-11-29予定(暫定) 未定
E13-12 2013-12-092013-12-13予定(暫定) 未定
E13-13 2013-12-232013-12-27予定(暫定) 未定
E13-14 2014-01-062014-01-10予定(暫定) 未定
E13-15 2014-01-202014-01-24予定(暫定) 未定
E13-16 2014-02-032014-02-07予定(暫定) 未定
E13-17 2014-02-172014-02-21予定(暫定) 未定
E13-18 2014-03-032014-03-07予定(暫定) 未定
E13-19 2014-03-172014-03-21予定(暫定) 未定
E13-20 2014-03-312014-04-04予定(暫定) 未定

当所にて生成し、 準天頂衛星「みちびき」を使用して放送したL1-SAIF補強メッセージについては、 こちら に記録されています (ファイルサイズが大きいため、gzip形式にて圧縮されています)。 記録形式は、NovAtel社OEM-3受信機の$FRMAレコードと同一です ($FRMAレコード形式の詳しい説明は、 こちら にもあります)。

記録形式: $FRMA,week,time,prn,data...*sum
week 週番号(下位10ビット)
time 週内の時刻(メッセージの最初のビットを受信した受信機時刻)[s]
prn メッセージを送信した衛星のPRN番号
data... メッセージ内容(16進数64文字で256ビット。最初の文字のMSBがメッセージの先頭で、先頭から250ビットが有効)
sum チェックサム('$'の次の文字〜'*'の直前までの文字のXOR)

ディレクトリ QZS-1 L1-SAIF(PRN183) (ファイルサイズが大きいため、gzip形式にて圧縮されています)


準天頂衛星の観測データ

当所では、準天頂衛星「みちびき」をはじめ、 GPSなど多数の測位衛星の測位信号を常時連続して受信・記録しています。 記録された観測データは共通フォーマットであるRINEX形式に変換したうえで こちら に格納されています。 観測条件等は次表のとおりです。

受信機JAVAD ALPHA-G3T
アンテナ位置電子航法研究所 6号棟屋上タワー
北緯35.679518936度 東経139.560964491度 楕円体高109.1971m
X=-3947737.9910 Y=3364428.7640 Z=3699428.9764
アンテナTrimble Zephyr Geodetic 2 (L1/L2/L5)
観測対象GPS、GLONASS、SBAS、QZSS

また、測位信号に重畳されて放送されている航法メッセージについても、 デコードして こちら に記録しています(L1C/A相当の信号のみ)。 このファイルはEMS形式で作成されており、詳細は次のとおりです。

記録形式: PRN YY MM DD HH MM SS TT data...
PRN PRN番号
YY MM DD メッセージが放送された日
HH MM SS メッセージが放送された時刻(最初のビットの送信開始時点)
TT
GPS/QZSS: サブフレーム番号(1〜5)
GLONASS: ストリング番号(1〜15)
SBAS/SAIF: メッセージタイプ(1〜63)
data... メッセージ内容(16進数で表記、最初の文字のMSBがメッセージの先頭)
メッセージ長=GPS/QZSS:300ビット(6秒)、GLONASS:100ビット(2秒)、SBAS/SAIF:250ビット(1秒)

ディレクトリ RINEXファイル (距離の観測データ)
ディレクトリ EMSファイル (放送された航法メッセージ)

※停電等の影響により、データファイルが存在しない日があります。ご容赦ください。
※2012年1月23日以前に収集したデータファイルでは、受信機の仕様上の制約により一部のデータが欠落しています。2012年1月23日以降のデータでは対策済みです。
※RINEX 2.11のフォーマットについては こちら


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